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2019年J2第12節 VS 横浜FC −ネットワーク型組織の規律と解放−

横浜FC 1−3 京都サンガF.C.

 

もう2年くらいサンガの戦評を書いておらず、気づけば完全な書籍紹介ブログになっちゃっているわけだが、今日は良い試合を現地で観られたので書き残しておきたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■システムのミスマッチを徹底的に突いた前半

中位同士の一戦となったこの試合。開始10分程度こそ五分五分の様相を呈していたが、先制点の前あたりからサンガがサイドで数的優位を作る場面が増える。理由は結構単純で、_IFCの中盤の並びと▲譽▲鵐疋蹇Ε疋潺鵐殴垢離櫂献轡腑縫鵐阿砲△襦

 

,砲弔い討世、横浜FCの前半のシステムは4-3-1-2。攻撃時も守備時もほとんど変わらない。基本的に守備時は”1”のレアンドロ・ドミンゲスが庄司をマークし、サイドハーフ(以下SH)の松浦と渡邊で対するサンガのセンターハーフ(以下CH)の2人(福岡と重廣)を見ることになっていた。ここで問題になるのは上がってくるサンガのSB(石櫃or黒木)を誰が見るのかということ。横浜のSBは相手のSH(仙頭or小屋松)を見なければならず、アンカーの佐藤は持ち場の中央から動きにくい。よって、何が起こるかというと横浜の両サイドのSBとSHの2人でサンガのSHとCH、SBの3人を見なければならない状況が発生する。

 

下記図の先制点のシーンではまさしくその状況が発生しており、1人余ったサンガ石櫃にボールが渡った瞬間に慌てて松浦が詰めに行き、その空いたスペースをCHの佐藤が埋めようとしている。しかし全く間に合っておらず、余裕を持った石櫃から職人芸としか言いようのない糸を引くようなクロスが上がりサンガの先制につながった。

これが石櫃でなければ遅れての対応で問題なかっただろう。だが、逆サイドの小屋松も同様、チャンスを演出する力量のあるサイドプレイヤーが現在のサンガにはおり、横浜はその力量を少し見誤ったのかもしれない。
 

 

続いて△離譽▲鵐疋蹇Ε疋潺鵐殴垢離櫂献轡腑鵑砲弔い討世、基本的に守備での運動量が他選手に比べ免除されている感があった。その結果何が起こるかというと、例えば上のシーンで石櫃がクロスを選ばず、中の庄司に戻した場合、易々と逆サイドの数的優位な味方に展開できることになる。このシーンでは横浜FWイバがなんとか庄司の前まで戻っているが、基本ここのマークは空いていた。サンガとしてはより数的優位が作りやすい方を毎回選択し、難しければ庄司を経由して逆サイドに変える、ということを非常にやりやすい状況があった。

 

また、こうした状況を利用するサンガ重廣・福岡のポジショニングの巧みさも唸らせられるものがあった。頻繁にSHとポジションを入れ替えたり、相手SBの裏に潜り込むことで中央にスペースを作ったりと、常にピッチを俯瞰して見ているようなオフザボールの動き出しが見られた。今年のサンガは試合ごとにメンバーが頻繁に入れ替わるが、ここの2人、特に重廣はしばらく替えが利かなそうに思える。

 

 

■横浜FCのスクランブルサッカー

さて、ここまで振り返って浮かぶ疑問は、横浜FCは何故このようなミスマッチが起こりうるシステムで臨んだかということである。その理由は恐らく2つあり、1つは上記の通り両サイドバックからのクロスを甘く見ていたことだが、最も重要な理由は攻撃面の狙いとして、徹底した大型2トップ狙いのフィードを意図していたことにある。

サンガの2CBは本職ではなく身長も低い安藤と本多であり、SBにも攻撃力を買われた石櫃と黒木が配置されている。言うなれば単純に放り込みを行うだけでもかなりチャンスが作りやすいわけで、トップ2枚が競ってゴール前で強引にスクランブル状態を起こすことができる。つまり、単純な放り込みからフリーマンのレアンドロ・ドミンゲス含めた前線3枚で攻撃の完結を狙った可能性が非常に高い。だからこそ、3人を除いたフィールド7人での守備を想定し、SBやSHにも袴田や渡邊といった守備重視の起用を行ったのかもしれない(ただ、右SB先発の中山は割とドリブルに特徴がある選手にも見え、このあたりの真意ははっきりと言えないところもある)。

 

この狙いは実際当たっている。同点ゴールのシーンは典型的であり、それ以外にも前線でこぼれ球を拾ったレアンドロ・ドミンゲスがきわどいシュートを放ったシーンもあった。単純で面白みのない攻めだが、サンガにとっては十分に脅威になっており、効果的であったと言える。

ゆえにサイドを捨てたことによる失点と一方でレアンドロ・ドミンゲスを自由にしたからこそのゴールが生まれた前半は、客観的に見れば横浜FCにとって想定内であったと言える。サンガとしてはなんとか耐えていただけに、時間を考えずにつなぎにいった黒木のロングボールへの対処は悔やまれる。

 

 

■自らを見失った横浜FCの後半

上記で想定内と述べた前半だが、当事者の横浜FCからしてみれば、京都にサイドを蹂躙された印象は強烈だったのだろう。4-3-1-2をやめて4-4-1-1へと変更する。まさしく修正してきたわけだが、これが完全に悪手となる。

 

まず攻撃面においては、ターゲットがFWイバ1枚になったにも関わらず前述のスクランブルサッカーを続けたため、単純にサンガセンターバック(以下CB)が競り合いに勝つことが増えた。その結果、サンガがセカンドボールを拾い続けることになった。

 

守備面においては、サンガの前線3人に対してDF4人、サンガの中盤3人+SB1人の計4人に対してMF4人と、数の上で同数を作ることに成功した。しかし特にサンガの左サイドにおいて、それまでのゾーンの守り方からマンツーマン的になり、マーカーが明確になった分、横浜の右サイドがサンガのSH小屋松との一対一を強いられる場面が増えた。

この試合に限らず今年の小屋松は対面のDFを何度もぶっちぎっているわけで、ここは正直ほとんど相手にならず、無数のチャンスを作り出すことに成功した。

 

終盤になると、サンガはレナン・モッタの起用によりボールロストが増え、また横浜FCが前に人数をかけてきたこともあって、守勢に回る時間が増えた。しかしそれは、スコア3−1の状況ゆえにサンガがそうしただけであり、レナン・モッタの試用も含めてゲームをクローズさせただけである。決して横浜FCが良くなったわけでもなく、90分トータルで言えばサンガの完勝と言っていい試合であった。

 

横浜FCとしては、組み立てのセンス・技術に乏しい選手たちが多い現状の中で、自分たちの唯一にして最大の武器であるパワー重視の押し込みを続けられなかったことが敗因の全てと言える。サンガはそもそも決定力に大きな課題がある一方、不意の1点を食らうことが多いチームなわけで、結果論としては布陣は変えずマークの整理にとどめるべきだった。

 

 

■なぜか憂鬱な横浜FC

ところで、横浜FCに関して上記以上に気になったのは、横浜FC選手たちの淡白なプレーである。

まず気になるのは、得点を獲っても獲られても静かな様子であること。特に同点ゴールのシーンではもう少し盛り上がってもよいように感じた。

プレー中においては、サンガの2点目時のFKに至るヨンアピンの少し集中の切れたような不必要なファールや、3点目時のヨンアピン・田代のあまりにも淡白な足先だけの対応などははっきり言って問題外である。失点シーン以外にも、基本的にサンガのパス&ゴーで簡単に追うのをあきらめている場面も散見された。

そもそもレアンドロ・ドミンゲスあたりは試合開始当初からイライラしている感じがあり、何となく試合に集中できていない様子が見受けられた。これまでの戦績や戦術への不信感などがあるかもしれないが、何かモチベーションが上がらない状況が最初からあったのかもしれない。理由は知らないが、なんというか布部時代のサンガのようだなと。大丈夫か?

 

 

■「ネットワーク型組織」への挑戦

と、何故か横浜FC目線でここまで書いてしまったが、サンガは非常に良かったと思う。

 

少し話は逸れるが、企業の組織・人事の領域において、近年注目されている組織形態として「ネットワーク型組織」というものがある(概念自体は20年以上前から存在する)。その定義は「成員の自律的判断によって局所最適化を図りながら、同時に全社的な調和と最適化をも達成しようとする柔軟な組織」(波頭亮『組織設計概論 戦略的組織制度の理論と実際』より引用)である。当然ながら多くの企業で用いられているピラミッド型の組織とは一線を画すような組織形態であり、ある種夢のような組織とも言える。

 

逆にサッカーではこのような個々の選手が自律的に意思決定しながら連携していくスタイルは現実的な理想形となる。この試合においてサンガは、まさにそうした生き物のような組織を実現できていたように思う。開幕当初は5レーンのポジショニングや三角形のボール回し、徹底した安全重視のボール保持やショートコーナーといった「規律」を守ることに執着していたのが、この試合では石櫃や大野のようなある種”異物”の存在をチームに取り込み、その中で各自がクロスや仕掛け、逆サイドまでのサポートといった”規律”から自らを解放するような判断を行っていた。

 

なぜこの「ネットワーク型組織」がうまく機能し始めたのか。

このタイプの組織が機能するための5つのポイントがあると言われている。それが以下の5つである。(同じく上記書籍より引用・一部改変)

 

  1. 多様な構成員 −水平的な役割分担が可能になるための多様な機能を担う人材の集合体であること
  2. 組織求心力を確保する仕組み −1人ひとりが組織に対して自律的に持つ「帰属意識と役割意識に基づいた求心力」を担保できる仕組み
  3. 普遍的なプロトコル(共通の規約) −コミュニケーションの共通規約があること
  4. 情報のオープン化 −自らが置かれた状態を客観的に判断するための情報が、組織構成員全体にシェアされうる仕組み
  5. 組織構成員がある一定のレベルで統一されていること −各メンバーのレベルを統一すること

 

意識的にか無意識的にか、この試合のサンガは上記の5要件を満たしていたように思う。

1の「多様な構成員」についてはポリバレントで且つ異質な選手も含めた多様性が確保されていたし、2の「組織求心力を確保する仕組み」については、あの闘莉王も含めた全員が、チームとしての規律を果たそうと献身的な姿勢を続けていた。どのような仕組みがあるのかは定かではないが、目指す方向性が明確に提示されていること等によって、求心力が確保されているのは確かだ。

3の「普遍的プロトコル(共通の規約)」については、チームの規律自体の存在だろう。特にサイドのSB・SH・CHの関係性については、明らかにパスコースとパス&ゴーに関する明確なルールがあるように見えた。

4の「情報のオープン化」は、この試合においては選手交代やシステム変更のメッセージがわかりやすい例にあたるだろう。特に選手交代による守勢/攻勢に入るメッセージングがかなり明確であるように思う。

そして5の「組織構成員がある一定のレベルで統一されていること」、これが恐らく最も重要で、大型外国人でなく、ルーキーや若手を中心とした運動量の多さをベースにした構成だからこそ、能力や意識のバラつきを生まない状態が実現できているように見えた(しかも本来ルーキーの多用は計算できない側面もあるだけにリスクも高いにも関わらずである)。

 

もちろんこれらのポイントは企業における話であって、そもそもサッカーの組織を対象にした話ではない。だが、組織としてゴールを目指すためのチーム作りの本質は企業もサッカーチームも大きくは変わらない。要は、「自由」だとか「パスサッカー」といった掛け声だけでなく、理想的な組織に向けた仕掛けをきちんと行っているという事実が重要なのだ。

 

 

■見事な手腕

開幕前は中田監督のTwitter投稿内容を見てかなり懐疑的であった自分も、この試合を見せられた今、その認識は改めなければならないと感じている。よくこの短期間でここまでの状態に持ってきたなと。

そもそも上記の「ネットワーク型組織」というのは、そうなりたくてもなれないものである。なぜなら、そこに至るまでに困難なハードルが3つ存在するからだ(以下)。

 

  1. 人間の能力のばらつき
  2. 人間の対処スパンの限界(複雑な状況の中で常に局所最適と全体最適のための解となる判断を下すこと)、
  3. コーディネートコスト(個々の意思を集団としてコーディネートする仕掛け・存在)

 

これらの問題に対する中田監督の対処は、頻繁な選手の入れ替え・抜擢、コンバートによるポリバレント性の確保、明確な”規律”の提示である。要は、頻繁に選手を入れ替えながら、しかしバランスとモチベーションを崩さない起用タイミングを見極め、育成と内容、結果のそれぞれの向上をうまく並立させられている。結果として、チーム全体の戦術理解の底上げとモチベーション維持が非常にうまくいっている。

特に今節では、大野・石櫃という異物を起用しながら、チームの良さをそれほど損なわせず、しかも各自が個性を発揮できていた。つまり、チーム全体で規律の浸透と解放の場面を整理でき始めているということであり、徐々に理想形に近づいていることを実感できた。

 

恐らくそこには脇を固める異例ともいえるような質・量のコーチ陣の顔ぶれも関係しているのだろう。また、明らかにスタメン・サブを盛り立てているようにみえる新加入のGK加藤の存在なども地味に大きいかもしれない。
そうしたピッチに入る以前の組織全体の体制作りをはじめ、中田監督のマネジメントは現在のところ成功しているように思える。この点については素直に感心する。

 

もちろんまだまだ成長過程のチームであるし、リスクも伴うチーム作り・スタイルだけに、恐らく今期のどこかで大きな停滞期が待っているだろう。だが、大木監督時代によくわかった通り、戻るべきスタイルがあるチームはそれだけで魅力的であり、応援したくなるのだ。

そんなわけで期待も膨らむが、まだ発足後約4か月のチームだけにあまり高望みはしないようにしたい。今節のような組織と個人の意思を表現できるような試合を見せてくれれば今は十分である。本当に良いトライをしていると思うので、困難があってもめげずに続けてくれることを願う。

 

以上

| 横浜FC | 00:20 | comments(3) |
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| - | 00:20 | - |
サンガサポーターの西京極紫と申します。
貴殿の試合分析に感銘を受けました。
素晴らしいです。
僕自身も今年のイチゾーサンガにはシーズン前に不安もありましたが、それは払拭されつつあります。
今年のサンガのサッカーは面白い――そう素直に言いたい。
これからも一緒にその行方を見守っていきたいと思います。
乱文失礼致しました。
| 西京極 紫 | 2019/05/06 6:21 PM |
≫西京極 紫さん

嬉しい言葉を頂きありがとうございます。
自分も「西京極 紫の館」見てるだけにコメントを頂き素直に嬉しいです。

>今年のサンガのサッカーは面白い――そう素直に言いたい。
今節には自分も驚きました。さすがに認めざるを得ないなと。
今後もこういう志のあるサッカーを続けてもらいたいですね。

ここ数年は分析する気が起きない試合ばかりでしたが、今年は更新も増やせそうです。
よかったらまた見に来てもらえれば幸いです。
| ejimiuson(管理人) | 2019/05/06 10:09 PM |
>ここ数年は分析する気が起きない試合ばかりでしたが、今年は更新も増やせそうです。

勝敗以前に試合内容が面白いというのが嬉しいです。
僕も貴殿のブログを拝見する機会が増えそうです!
今後とも宜しくお願い致します。
| 西京極 紫 | 2019/05/07 9:47 PM |









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